「お父さん、もっと姿勢を正して歩いて!」と聞いて、そのアドバイスを危ないと感じました。

院長日記。個人の視点を書きました。

不思議なもので、赤ちゃんを授かった時は多くの妊婦さんを街中で見つけるし、子育て中はベビーカーをたくさん見かけました。抱っこ紐はすれ違う方を見て決めました。

子育てが落ち着いた今、杖を持った方に目がいきます。視覚障害の方や年配の方々です。お一人で歩いている人もいれば、ご夫婦もいますし、中には杖をついたお父さんが、後遺症で杖をついているお子さんを見守っているケースも。

そんなある日に見かけたご夫婦のことを書きます。

目次

女性が男性にかけた言葉

遠くから見えた2人は共に白髪の方。男性が杖を右手に持ちゆっくりと歩いていました。ぴったりと寄り添った隣の女性は、頭にシフォンのスカーフを巻いて、ヒールのサンダルにロングスカート。お二人がとても優雅に感じられました。

しばらくして、突如女性が大きな声で隣の男性に話しかけました。

「お父さん、姿勢が斜めになっている!もっとまっすぐにして!背中をそらして!!」と。

その時の男性は、身体が右側に傾き、背中も曲がっていてお腹も出ていました。先ほどまでの姿勢とは全く違ったのでした。

男性は慌てて姿勢を正そうと背を伸ばしました。でも、今度はかえって背中が反って重心が後ろ気味に。隣に寄り添っていたはずの女性は、男性から少し離れて大声で姿勢をまっすぐにしろと言い続けていました。。

なぜいい姿勢を取れないのか

「頭ではわかっているけど、身体がついてこない」

少し話がそれますが、私は小さい頃から運動が苦手で、鉄棒や球技の授業は散々な結果でした。マット運動も苦手。生まれ変わったら、自在に動かせる身体と体力が欲しいほどです。

姿勢も同じです。小さい頃から猫背ですし、どうも肩の片方が上がり気味。骨盤も左右差があります。

姿勢にはたくさんの筋肉が使われています。それこそ、頭から足のつま先までの全身運動です。

姿勢は、意識すれば修正できると思われがちです。でもそうじゃないって、私は思うんです。できる範囲(限界)がある。

しかも歳を重ねると、生まれつきのクセや骨格だけでなく筋肉も衰えるため、若い頃と同じ意識ではバランスが保てません。疲れやすくもなりますし、体力が衰えると姿勢を保つ筋肉はどうしても動きが鈍くなります。

加齢による「わかっているけど、身体がついてこない」は、美しい姿勢を続けてこられた人でも起こりうる現象です。

いい姿勢を取ろうとすると、かえって危ないことも

先ほどの男性は、杖が衰えた筋肉をカバーしていたと考えられます。その方が、杖に体重をかけて斜めになっていくのは、わりと自然な状況でした。

もし女性が指摘したように背中をそらしたら、杖の支えがなくなり場合によっては、反った方向に倒れてしまうかもしれません

転倒のケガを予防したいはずなのに、本末転倒になりかねない声がけと、私は思いました。

姿勢や歩き方には、それなりの理由があって、その理由を読み取るのが私たち(鍼灸マッサージ師や理学療法士)の仕事です。

その姿勢や歩き方がケガにつながる場合は、アドバイスが必要でしょう。

でもそのアドバイスこそが、相当に高度な技術です。あるクライアントでは、専門家のアドバイスで、かえって歩き方が不自然になって散歩すら緊張するケースもありました。

自然な動きを改善したい

施術現場では正しい姿勢や歩き方のアドバイスをほとんどしません。意識させないで、どれほど楽に(その人なりの)理想的な姿勢や歩き方に近づくか調整するからです。

そのため歩く姿勢をみることがあります。特に部活の怪我や、年配の方で筋力が衰えている人、心理的な問題で歩き方に自信がない人のチェックには必要と思っています。

歩き方を施術前と施術後を比べるだけではなく、気になる部分を見つけて、そのような歩き方にさせている筋肉に刺激を加えます。刺激する場所は、太ももの時もあれば、ふくらはぎやかかと、足指の場合もあります。

何度も寝てもらって歩いてもらうのは少し気が引けるのですが、共同作業の時間でもあるので戦友のような感じがして結構すきです。

関係性も見越してアドバイスしたい

いやあ、それにしても家族だと言葉で伝えるのは本当に高度なスキルです。女性の言葉からは、その奥の苛立ちを感じ取ったのですが、それって自然じゃないですか。親子や夫婦の互いへの不満や怒りは、あって当然と思っています。逆に言えば、身体のアドバイスは怒りや不満をぶつける種にもなりやすい(私もやっちゃう)。

聞く人も本来のアドバイス以上に「相手を怒らせるからしっかりしよう」など余計な意識が働きますね。。

だから難しい。そして危ない。

もし私が今アドバイスできる立場(このご夫婦から依頼されていたら)なら、それぞれの性格などを見越した伝え方を模索しただろうと思います。きっと悩みまくるのでしょうが、患者さんを前に言葉に悩むのもまた、私の仕事の一つです。

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