不妊鍼灸の役割は何だろう

日本不妊カウンセリング学会の学術集会に参加しました。

目次

胚培養士に親近感

学術大会は医師や看護師、助産師さんなど医療クリニックに所属する方が多く参加し、それぞれの専門的な発表を聞けます。

最初はカウンセリングの発表を聞く予定でした。でも抄録(発表内容をまとめた冊子)を読んでいて、「胚培養士」が気になりました。

胚培養士(はいばいようし)」とは、胚(受精卵)を扱う専門職です。主に不妊治療に携わっており、体外で精子と卵子を受精させて母体に戻すまでの過程において、胚凍結や胚融解、培養などを行うのが仕事内容です。そのため、産婦人科領域の高度な知識が必要とされています。

https://job-medley.com/tips/detail/901/


抄録を読んで初めて知ったのですが、胚培養士は国家資格ではなく、農学部や生物系の出身者も多いそうです。てっきり臨床技師さんだと思っていたので、ちょっと興奮しました。

というのも、大学で微生物を培養していたので胚培養士さんが急に身近に感じられました。予定を変更して、胚培養士さん達の話を聞くことにしました。

胚培養士の葛藤は、鍼灸師のそれと驚くほど重なっていました。

その中で一つ、とても印象的な言葉がありました。

胚培養士の仕事は、胚の質を下げないこと。上がらないのは事実。医師はいい卵を作る・選ぶ。あとは胚培養士が頑張る」

この言葉に、ハッとしました。私が悶々としていたことの答えがある気がしたのです。

鍼灸は『卵子と精子の質を上げる』、、、?

今から20年以上前、師匠から「鍼灸は卵子と精子の質を上げる」と言われました。

当時の不妊鍼灸は今より認知度が低くて、「薬を使いたくない、体外受精や顕微授精などではなく、自然に妊娠したい。」方が施術を受けていました。

私も鍼灸は西洋医療の代わりになると思っていました。開業した頃のセルフケアブログでも「卵子の質を上げるための鍼灸マッサージ」と書きました。

「この人は妊娠できる」と思うこともあったし、実際にそのタイミングで着床、出産まで至るケースも何度も経験しています。

だけど依頼が増えるほどに、例外も増えてきました。

東洋医学の見立てでは【妊娠できる】はずなのに、【授かれなかった】人もいるし、死産となったケースもあります。

そこで少しずつ考えるようになったのです。何が問題なのか。何を改善したらのか。

その中の一つが「卵子の質と鍼灸」でした。

同じ言葉でも意味が違うのでは?

不妊カウンセラーになるためには、年に2回養成講座があって、今年の春で3回受講しています。てっきりカウンセリング術を磨くのだと思っていたら、統計や論文など科学情報に基づいた情報提供力も必要と知り、びっくりしました。

もっと驚いたのは、不妊クリニックは「妊娠(胎嚢と心拍確認)」のゴールを目指しているけど、その前に本当に妊娠してもいいか、さまざまな検査を行なっていることでした。時には不妊治療をすすめないことも。不妊クリニックは、医療なんだと改めて気付かされました。そしてより良い医療を提供できるように、試行錯誤していました。

鍼灸はどうだろう。

鍼灸は東洋医学を土台に発展して、医学書は2000年以上前から存在します。

「このクライアントは間も無く回復できるし、妊娠できるのでは?」と推測できるほどに、体系化された理論や手技もある中で、不妊に悩む方にとっては時代によっては欠かせない医療だったはずです。

でも今は、立ち止まって考える時かもしれません。

師匠から受け継いだ言葉と、今の科学の言葉とでは、意味が違ってくるのではないか?もしかしたら同じ言葉を使うことで患者さんをミスリードしないか?

そして私自身は、過去の自分が良いイメージばかりを提供していなかったか、占いのような誘導はしなかったかと、さまざまな角度から自分を振り返っています。その中で、胚培養士の「卵子の質を上げることはできない」は、大きなヒントになる気がしています。

鍼灸マッサージにはステップアップがない

当院では、自然に授かることを待っている人もいれば、体外受精や顕微授精を選択した人もいます。

不妊クリニックでは希望や体調に合わせてステップアップを検討して、薬の種類や通院回数が変わりますが、少なくとも当院では、ステップアップで対応が変わることはありません。

タイミングでも顕微授精でも、その人の体調を整えます。不妊治療中でも他の症状があって当たり前で、風邪やふくらはぎのむくみ、時には手首の捻挫もまとめてケアします。

そんな対応だったら不妊鍼灸の意味がないと思われるかもしれません。「卵子や精子の質をあげるのが鍼灸でしょ」と不安にもなるでしょう。

私個人は、不妊鍼灸は不妊クリニックと同じ立場でいる必要はないと思っています。

鍼灸マッサージだけで授かるケースもあるけど、授からないケースも視野に入れて対応したい。

ホルモン療法で起きる不調を和らげること。
生活習慣の改善のハードルを下げること。
授からない苦しみも吐き出せる。

不妊治療で取りこぼされてしまう悩みや不調のいくつかを、鍼灸が担えるといいなと願っています。

不妊鍼灸に限らず、鍼灸マッサージ自体の役割が転換期に来ているとも思っています。私自身ひどい生理痛と出血を東洋医学で整えてきましたが、痛みがなくなった=治ったではなかったと反省しています。

当院の不妊鍼灸は体調が安定している場合は、施術回数を1ヶ月前後あけています。またはりやお灸が怖い時はマッサージでも対応しています。お気軽にお問い合わせください。

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