施術の現場で、私が感じたことをつづります。プライバシー保護のため、事実を一部加工しております。
「そうね、口元もまぶたもだいぶ戻ってきたなって、思うのだけど。。まぶたはまだ重い。視界が塞がっている感じがする。あと、疲れが溜まっているのか、横断歩道の前では前みたいにパパって動けなくなったわ」
その言葉を聞いた私は、施術前のお決まりになった顔の撮影に、新たに動画を加えました。
そしてお顔のどのあたりに違和感が残っているか、手でふれながら、施術の準備に取り掛かりました。
急いで救急に繋ぐ
ある日、お付き合いがある方からご連絡が。
「母の顔が急にこわばってきました。どうも、疲れもたまっているようで。五十嵐さん、一度見ていただけますか?」
すぐにお返事をしました。
頭に浮かんだのはいくつかの病名。そのうちの一つは、一刻もはやく病院での処置が必要なもの。命にかかわるものだったからです。
その後、クライアントさんから連絡が来て、やはり脳神経外科に案内されて検査を受けたとのこと。
診断名は、顔面神経麻痺。しばらくは薬を飲むことに。
言い訳しか出てこない。私の頭との戦い。
顔面神経麻痺のケアは、最初に重ねていくことが大事と、学んでいました。
だけど時はコロナ禍。
軌道に乗ったと思っても、感染の波で数ヶ月の中断を繰り返しました。
「間が空いている」
「時間が経っている」
「2割は治らない」
中断したいとクライアントさんが申し出られた時、ご家庭の事情を理解しつつ、それでも間があくデメリットをお伝えしました。
一方で、これは私の言い訳では?とも。
病気や症状とは人それぞれの付き合い方があるのに、知識や技術を提供する人が伝える情報は、必要以上におどしになるかもしれない。
顔面神経麻痺のAさんではなく、Aさんが顔面神経麻痺になったとしたら?
そもそも、顔面神経麻痺の対応経験はこれまでに数例ほど。知識はあっても、どう組み立てていけばいいか。
この悩みは初回の施術前に吹っ飛んでいました。
日々の疲れが溜まっていたし、すごく神経を使っておられたし、そして他にも辛い症状がある。
顔面神経麻痺の患者さんではなく、
「その方の困りごとの一つが顔面神経麻痺で起きている。」と、切り替えることで、やれることは毎回あふれるほどありました。
だからこそ、もどかしかった。
写真を撮って、ああだこうだ
ある時ふと思って、施術の前に写真を取りました。
施術後にも写真を。
それ以来、お嬢さんとクライアントさんと私の3人で、
ビフォーアフターの変化を、写真を見ながら語り合うまでがお決まりになりました。
この時間がすごく楽しい。
「もうちょっと変化しそう」と思ったら、施術を追加して再び撮影。
「ほうれい線が出てきた!」
「目の開きが違う!」
「口の左右の位置が前よりも整っている」
と、目の前の顔と見比べる。
PLAZA(輸入雑貨などがおいてあるお店)の化粧品コーナーで、サンプルを試す女子高生のようなノリです。
クライアントさんは若い頃から、自分の顔を見るのが苦手。
顔を洗う時以外は、ほとんど鏡を見たことがないっておっしゃるのに、スマホで撮るお顔がすごくイキイキしていて、それは美しく、そして誇らしい表情でうつってくださりました。
顔面神経麻痺の顔を見ているはずが、「きれい!」「表情がすごく素敵!」と感想を言い続けるものだから、一体何の現場やら。
気づいたら、治るのか?という疑問の場ではなくて、
「今日はどうな変化が起きるかな?」を見返すのが楽しい場になっていました。
間があいても、できることがある
先日の施術は3ヶ月ぶりでした。
お顔はもっと変わっていて、くわしい人が見ない限りは、違和感が見つけられないほど。
でもご本人はまだ不自由さを感じています。
うまく噛めないから、口内炎ができやすいし、反対側も緊張している。
横断歩道の前で動きが遅くなったのは、首の周りの緊張が強くて動かしにくいのもありそうでした。
できることは、いつも無限にあります。
そして今はまだ、施術後の変化もしっかりと出ます。というか、私とお嬢さんが、変化を見逃していません。
まぶたの重みが減ったり、まばたきが左右同時にできていたり。
ご本人も動画を見て変化に気づく。
間があいても、できることがある。と学んでいる、とても貴重な現場です。